創作・竜と剣と魔法のファンタジー“ツクリユキ(仮)”
すとんと、すべてが落っこちたような気がした。まるで灯りに群がる虫のように、目指すものを真ん中に捉えて彷徨う視線。自覚しているのに止まらない、止められない。自分の体が自分の思うとおりに動かせないなんて初めてだった。どうしよう、壊れてしまったのかも知れない。
どうしよう、どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう、
――いいんだよ。
頭の冷静な部分が囁いた。
壊れたっていいんだよ。だって見て、この目の前の“人間”を。
小山のような竜の骸を背後に、こちらをいぶかしんで佇む金の髪の男と対照的に何の感情も宿さず立つ男。
舞う雪に弄られるのは銀の髪。曇天に煌めいて揺らめく、こちらを見据える瞳もまた銀色。
そう、背後の骸から流れる夥しい量の銀、すなわち竜の血と同じ色。
――ほら、ね? だからもう、私は壊れてもいいんだよ。使い物にならなくなってもいいんだよ。
――だって、この男は、
相対する男を見つめたまま、少女は唇を噛む。
男は何も知らない。だから黙ってこちらを眺めている。その銀の瞳、それこそが少女の存在の何もかもを脅かすというのに。
どうして、今になってこんな“人間”が出てくるの?
もっと早く、ここに来てくれればよかったのに。そしたら私は生まれなくてすんだのに。
そうでなければ、今頃になってその存在を、見せつけないで、欲しかった。
ひらひらと雪が舞う。少女はただ竜を殺す男を見つめ続けていた。遠くからようやく、大勢の足音が近付いてきていた。