080819
*退治屋「身代わりにして傷を舐めあおうとしているのではないか、と」
「犬か、こいつは」
石床で丸くなっている居候を見つけ、セネカは思わずそう漏らす。犬呼ばわりされた当のギンは呟きにも微動だにしない。顔が隠れてしまっているので判然としないがどうも眠っているらしかった。
セネカはギンの傍らにしゃがみ込んだ。ギンにはちゃんと部屋を与えているし、家具の名前から使い方まできっちり説明した。ヒトとしての常識がごっそり欠落しているギンだが物覚えが悪いわけではなく、ひととおりのことは理解している様子だった。にもかかわらず広間の床の上で寝ているとは、まったく以ってこいつは何を考えているのか。さっぱり読めない。
さて、起こすべきか、はたまた部屋まで運んでやるべきか。セネカは何気なく手を伸ばし、ギンの髪に指を絡める。名前の由来である――我ながら短絡的だと思うが――白銀の髪は硬質な見た目に反して柔らかい。ついでに軽く引っ張ってみるが、やはりギンは何の反応も示さなかった。溜め息をついて立ち上がる。
とりあえず毛布でも引っ掛けておいてやるかとギンの部屋へ足を向け、ふと覚えた既視感に首を捻る。が、すぐに正体に思い至った。討伐隊時代だ。竜との戦闘で疲労しきった男連中は自室に戻る気力もなく、兵舎の玄関先だの広間だの階段だの、とにかくそこらあたりで倒れこむものだから、セネカは端から面倒を見て回った。
そうだ、そんな時には必ず――あいつが――
じんわりと滲んできた心の声に頭を振る。思い出すのは仕方がない、ただ彼女のことを思い出しても足を止めなくなった、それだけで今は十分だ。使った様子のないベッドの上に放られた毛布を掴む。
それでもひとつ、恐れているのは、
「俺は、ギンを、」
これは“あい”だ、と、いう偽り(セネカとギン)