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よー、まいごっど

歴史創作と一次創作。

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さんじゅうよん、一日一小話



 080822
 *RD「そのときはまだ何も知らなかったから」



初めてお会いしたのは一族の墓地だった。不思議だと思わなかったわけではない。
 そのときわたしは父母と一緒に白い大きな花束を抱えていて、服だっていつもよりずっとちゃんとした真っ黒なドレスだった。黒なんか嫌、お花と同じ真っ白なお洋服を着たいですと言って母を困らせた記憶がある。「今日はだいじな用事だから」と宥めすかされた挙句、膨れっ面のまま馬車に乗った。
 墓地へ向かって揺れる馬車の中、娘の機嫌をなんとかしようと父も母も手を焼いていたけれど、人形にもお菓子にも尖ったわたしの心は動かされることなく、そのまま墓地へと着いてしまった。一族の墓地なんて言っても無駄に広大な私有地の一角のことで、単に屋敷から歩いていくには遠いだけだから意固地な娘を宥めるには不十分すぎる時間で到着してしまう。父母の敗因の一つに違いなかった。
 結局、わたしは乗ったときと同じ膨れっ面で母に手を引かれながら、墓碑に向かった。いやいやだから俯いたままで、真っ白な花にほとんど顔を埋めながら歩いていた。花と地面と、ドレスとお揃いの真っ黒な靴が歩みに合わせて揺れていて、ふいにその動きが止まった。手を引く母が足を止めたからだ。
 母は小さく、あ、と声を上げて、でも次の瞬間にはすごく嬉しそうに顔を綻ばせた。反対に隣に立つ父はなぜだかすごく複雑な顔をしていた。当時は分からなかったけど今ならその理由が分かる。例えるならあの表情は化け物に遭ったとか幽霊を見たとか、そんな顔だったのだ。
 わたしもようやく顔を上げて、そのひとを見た。
 広い墓地にはいくつもの墓碑が整然と並んでいたけれど、わたしたちがその日訪れた、つまりそのひとが花を捧げていた場所だけは違っていた。あたり一面に白い小さな花が咲いているのも二つの墓碑が寄り添うように並んでいるのも同じだけど、周りをまたいくつかの墓碑が円状に取り囲んでいる。私の曾祖父母と、二人がご存命だったときに屋敷で働いていた人たちの墓碑だと後で知った。
 不思議だと思ったのは、少なくとも「叔父様」と呼ばれたそのひとが呼んだ母より若かく見えたからではなく、そのひとが抱えていたのが真っ赤な花束で、服だってわたしが無理矢理着せられた真っ黒な礼服じゃなくごくごく普通の服で、わたしの思っていた墓参とはまったく異なるのに墓地の空気に溶けてしまいそうに見えたことだった。
 このひとは誰だろう。不思議な空気の中で考えたのを覚えている。一族にゆかりのある人は大抵赤い髪をしているけれど、そのひとは長い銀色の髪を微かな風に靡かせていた。溶けてしまいそうに見えたのはその綺麗な髪が墓地に舞う花びらと一緒にやがて消えてしまいそうだと感じたからかもしれない。





彩色に綺麗だと思う無邪気(アイリス→シーレ)
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