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よー、まいごっど

歴史創作と一次創作。

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さんじゅうろく、一日一小話



 080823
 *リボ「嫌がらせです」



ファリル=コードウェルという人間のことは一応誰よりも解っているつもりだった。ということはつまり、ファリルの自分に対する姿勢は破格の待遇だということで、自分自身それは重々承知しているということもある。
「レイヴ」
 ただしファリルは何事につけても常に不服だと思う人間である。極端なことを言ってしまえば生まれたときから何もかも抑圧されながら生きてきている。責任のほんの一端、されど確かに一端を背負う者としてはせめて自分の前でだけは思うとおりに振る舞って欲しいと思う反面、そんなことをされたら恐らく自分の身は破滅するのではないかと本気で思う。結局、ファリルの行動に自分が口を出すことは憚られ、本人がやりたいようにやってもらうしかない。
「レイヴ、レイヴさーん」
 だから今、こんな苦痛を負うのも仕方がないのだ。まるで罰のようなそれを大人しく受けるしかない。
「レ・イ・ヴさんってばー」
 受けるしかないのだが、限度もある。それはもうある。
 背筋を伝うむず痒さというかおぞましさというか、とにかく悪寒めいたものに震える体からなんとか力を抜き、握ったままでちっとも進みやしない筆を置いた。
「なっ…んだ、さっきから」
 努めて平静を装いながら振り返る。自分の寝台の上にちゃっかり陣取り、暇そうに足をぶらつかせていたファリルは唇を尖らせた。ただし目で笑っている。
「ちっとも答えてくれないから、聞こえてないのかと思って呼んだんじゃないですかー」
 あからさまに嘘だ。分かりやすすぎる。思わず片手で顔を覆った。
 ファリル=コードウェルに自分の名前を呼ばれるということが、大砲を撃ち込まれるより堪えることだとは知らなかった。ここ数年聞いていなかった響きの殺傷力の高さを思い知る。
 ファリルが名である“レイヴ”でなく、姓の“アルフォード”で呼ぶのは自分が頼んだからだった。ファリル自身はその頼みを聞いて「下らない」と冷笑したものだが、それでも兄が死んでから十年間、概ね姓で呼び続けてくれている。だからこそ“破格の待遇”である。
 だがしかし今日、今、このファリルは何を考えているのか。とりあえず自分自身にとってろくでもないことだけは間違いない。
 顔を覆っていた手で鈍く頭を襲う痛みを紛らわすように前髪を掻き混ぜて、大きく息を吐く。臨戦態勢である。
「……で、何の用なんだ?」
 ファリルは花の綻ぶような笑みを浮かべて、そっと、艶やかに三日月を描く唇を開いた。
「もちろん――」





綺麗なあの子は戦略兵器(レイヴとファリル)
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