二年前の日記からサルベージ。
前回記事より後のお話、つまり本編のすべてが終わった後。
本郷君と真宮君と鬼道君が今城君を発見
「あ、千尋先輩」
大和が思わず声をあげる。並んで歩いていた鷹臣は大和のほうをちらりと見て、それから大和の視線の先へと目をやる。
駐輪場にかかる柱の向こうに千尋はいた。それともう二人、どこかで見たような男子学生と女子学生。千尋と女子学生は狼狽したような表情で男子学生を見ている。
「おう、渦海先輩じゃん」
「うわっ! …い、たのか鬼道」
湧いたとしか思えないほど唐突に、大和と鷹臣の間からナナキがにゅうっと顔出していた。数センチほど飛び上がらんばかりに驚いた大和に構わず、ナナキは件の三人を見ている。
「まじでやってんのか先輩。こりねーなあ」
「何、何が? 渦海先輩って、えーと」
「生・徒・会。後任指名制度が生きてるなら東宮先輩の次はアレが生徒会長だと」
と、嘯くのが現生徒会役員である。そういえばこいつそんな役職持ってたっけか、思えば先日の翼角祭でもあちこちでよく分からない仕事をするにはしていた気がする。
思い出しても曖昧なのは、多分にあの事件のせいだ。大和はぎこちなく視線を彷徨わせた。あれから何週間も経っていないのに平然としているナナキにはいろんな意味で感心する。ある意味いつも通りに輪をかけていつも通りといえばナナキよりむしろ鷹臣のほうだが。
と、ここでふと気がついた。ナナキが湧いたというのに鷹臣が無言を貫き通している。
「――……」
鷹臣は目を細めて、あの睨むような目で、千尋を見ていた。
「……真宮?」
ナナキを睨むならともかく、千尋をそんな風に見つめる理由が見当たらない。思わず名前を呼べば、鷹臣はゆっくりと大和へ視線を合わせる。そこでようやく眉間に皺を寄せた。
「……いつからいた、鬼道」
「ヤッダー、結構前からだけど?」
ナナキは含んだ目で千尋と鷹臣を見比べ、それからにやりと笑って、
「もしかしてお前、今更気づいたの? アレに?」
鷹臣が黙り込む。大和は首を傾げる。
「何?」
「んー? 今のお前なら見えるんじゃねえの? センパイの、肩の」
「肩?」
センパイ、といって顎をしゃくられたのは千尋だった。大和は目を凝らす。千尋の肩。肩……
首を捻る大和を放置して、ナナキはにやにやと笑んだまま鷹臣に絡んでいく。鷹臣は心底嫌そうに身を引いたが、ナナキはずいと顔を寄せた。
「お前、本郷ばっか気にしてオツトメ忘れてんだろ? お前よかずーっと無道のがアレ、気にかけてたぜ?」
「……お前は」
「俺? んなの、初見でまず気づくだろ」
背後の会話を辿りながら目を凝らす。ふわりと白いものが揺れたような気がして、大和は目を瞬かせた。千尋の肩に、何か白いものが――気のせいじゃない。いやな感じはしないけれど、千尋の肩あたりに、誰かいる。
* * * * * * * * * *
7つ目の後。
・本郷大和:つかれやすかったひと。7つ目なので過去形。
・真宮鷹臣:見えるものをかたづけるひと。
・鬼道ナナキ:見えるひと。なんかするかどうかは気分次第。
・今城千尋:常についてるひと。
・渦海彼方:2年生。年齢的には3年生。次の生徒会長候補。
・無道:先生。見えるものをどうにかするひと。
よし、俺得。