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よー、まいごっど

歴史創作と一次創作。

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よんじゅういち、一日一小話


 080827
 *リボ「もう一匙分でいい、頼むから暁将としての威厳を持っていてくれ」



暁将、と低く呟いてやれば、ひたすらに動き続けていた手と口がようやく止まった。その様を見、マガスは深く深く溜め息をつく。
 暁国政府代表とは言え、政を一人で行っているわけではない。そもそもこの暁という国は統一戦争以来特殊な均衡のもと成り立っている。こと外交、また軍の編成に関してはレイヴ=アルフォードの意見を重く取り入れている。マガスの一言により、手を伸ばしたままの姿勢で動きを止めている男――暁国軍准主にして華安統一政府連合軍白軍暁将、ヤード=ブッシャーもレイヴとの協議の産物である。
 ヤードはまだ二十三歳と若い。最年少の国将ではないだろうか。レイヴが暁国軍准主、ひいては白軍暁将にこの男を推したときは若過ぎると一度は意見を退けた。しかしレイヴは尚も食い下がり、熱意に押されてよくよく人となりを見たところ、言われてみればこれ以上准主に見合う者はいないだろうという結論に達し、現在の役職に納まっている。
 本人の性格や思考、人望、戦術的感覚には確かに問題はなかった。それにしても。それにしてもだ。たった一つ予想外に過ぎる要因があった。これだけはどうしても解せないし、可能なら改めて欲しいと切実に思う。マガスは重苦しい気分で口を開く。
「ヤード」
「……は」
 常に好青年然とした彼には不似合いな、僅か震える返答。何があったのかと訝るだろう、ヤードのこの姿を見なければ。
 潤む空色の目に、微かに戦慄く唇。伸ばされた手はかたかたと震えている。ここまでなら、例えば「ヤード様って素敵よね、あんなにお若いのに准主様だなんて!」「そうそう、凛々しくて」「そうかしら、私はお可愛らしい方だと思うわ。あの少しはにかんだ笑顔がたまらないのよ」などと黄色い声で囃し立てている紫雲中の女性たちが歓喜の声を上げそうなものではある。
「その辺で止めておけ」
「しかしっ……自分は!」
 熱のこもった返答にげんなりする。もう耐えられませんとでも言いたげに左右に首を振るヤードの目尻に一瞬光るものが見えた気がしたが気のせいだと思う。思いたい。でなければこちらが泣きたくなる。
「……それで何皿目だ」
 低く零せばひのふのみのと真面目に数えだすのだからますます堪らない。マガスは込み上げる何かを抑えきれず両手で顔を覆った。
 己の隣に山と積まれた甘味の皿を数え終わったヤードはマガスの様子に気付くこともなく、また真面目に、そしてどこか切なげに答えた。視線は目の前の皿に固定されたままになっている。
「二十……二皿、目、です」
「十分だ、十分過ぎる。頼むからもう止めてくれ」
 とろり黒蜜の掛かった団子は質素ながらも上品で、暁が華安に誇る甘味屋“柑李亭”自慢の一品である。ちなみに串一本につき団子は四つ刺さっていて、一皿に串三本がちょこんと乗っている。それが二十二皿。甘党にもほどがある。
 嗜好など個人の問題で、本来取り沙汰すようなことではない。しかしヤードのこれはいっそ病気だ。執務室に満ち満ちた甘い匂いにマガスは頭痛を覚えた。ヤードは捨てられた犬のような目で目前の皿とマガスとを見比べている。





暁主従間に横たわるもの(マガスとヤード)
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