080826
*1059/酷く二次創作的な大坂「落下の刹那に見えた瞳はやはり虚ろでしかない」
「お気に障ったのなら謝りましょう」
淡々と返すその瞳は薄気味悪いほど虚ろで、又兵衛は幸村を突き飛ばした。思わず、ではない。純粋に「触れたくない」と絶叫する胸の内と、ぞわぞわと背筋を這い登る嫌悪故である。加減も何も斟酌しなかった。
当の幸村は何の抵抗もせずあっさりと砂利の上に倒れる。それがまた癇に障った。確かに現場でものを言い槍を振るう又兵衛と、机上で培った理論を語り采配を振る幸村では力の差は歴然としている。しかし抵抗することに理屈は要らない、無駄だと知っていても手足は抗おうともがくものだ。なれど目の前の男は木偶のように倒れるだけだった。抗うまいと意図しなければそんな芸当は“出来ない”。
又兵衛は音が鳴るほど奥歯を噛み締めると、転がったままの幸村にずかずかと近付く。触れたくないどころか目の端にも入れたくない。それでも迫るのは嫌悪が憎悪に摩り替わったからだと自覚している。幸村の前髪を鷲掴み、伏せていた顔を無理矢理上げさせた。
又兵衛を映すだけで何の感情も宿さない瞳はやはり虚ろで、唇から僅かの苦鳴を零すこともなかった。己の身に何が起ころうと是とするつもりなのだろう。ただし幸村の影は断じてこの行為を許さないつもりらしい。激昂にも似た何かに支配される又兵衛の身を冷やしていくのは、つまり影の意思と存在感である。
「止めよ六郎」
果たして最後の拒絶すら否定したのは幸村自身だった。どこぞに潜んでいる己の影に掛ける声には、又兵衛の前では見せない色と力が織り込まれている。
「しかし――」
「六」
こうして草の者を捻じ伏せる程度の意思も力もあるのだ。何も考えていないわけでも、無論愚かなわけでもない。ではこの男が敢えて抗わないのは何故か。答えなど分かろう筈もないし、分かりたくもない。
ひたひたと浸食する威圧感の消失に影が失せたことを知る。それでも冷え続ける思考に殉じて、又兵衛は掌を開いた。砂利の散る音と鈍い落下音。吐気を覚えた。
決して相容れない、ということの(又兵衛と幸村)
...なんぞこれ\(^0^)/ 某きちめがな後藤氏にきゅんきゅんしたので「ウチの又兵衛にも鬼畜になってもらおっ☆」と、ほんの、ほんの悪戯心から書いてみたものの、予想通りただきもちわるいだけの話になった。